ショーン・ベイカー監督の映画『Starlet』はおもしろい!ラストの解釈は人それぞれ、想像してOK!
何気なく観た映画『Starlet(スターレット)』(邦題:『チワワは見ていた ポルノ女優と未亡人の秘密』)。正直なところ、それほど期待せずに観始めた映画でした。ところが、これがなかなか面白い。
派手な展開があるわけでも、大きな事件が次々と起こるわけでもありません。それなのに、観終わったあとまで妙に心に残り、自分なりに物語の続きを想像したくなる映画でした。
あのラストにはどんな意味があったのか、私なりの解釈も含めて考えてみたいと思います。
映画『Starlet(スターレット)』作品情報

starlet
邦題:『チワワは見ていた ポルノ女優と未亡人の秘密』
評価 ★★★★☆
- 原題:STARLET
- 製作年:2012年
- 製作国:アメリカ・イギリス
- 上映時間:103分
- 監督:ショーン・ベイカー
- 出演:ドリー・ヘミングウェイ/ベセドカ・ジョンソン/ステラ・マイーヴ/ジェームズ・ランソン
「スターレット」の意味とは?
「Starlet」には、若手女優、売り出し中の女優、スターの卵といった意味があります。そして映画に登場するチワワの名前も「スターレット」。主人公ジェーンがスターになることを夢見て、この名前をつけたのか。それとも、そこには別の意味が込められているのか……。ちなみにスターレットは、ジェーンが保護施設から迎えたオスのチワワです。
映画を観終わってから改めて「Starlet」というタイトルを考えてみると、なかなか意味深なタイトルにも思えてきます。
『Starlet』あらすじ
21歳のジェーンは、愛犬スターレットと一緒に、友人のメリッサとその恋人マイキーが暮らす家で生活しています。
ある日、殺風景な自分の部屋を模様替えしようと買い物に出かけたジェーンは、ガレージセールでちょっとおしゃれな魔法瓶を見つけます。花瓶として使おうと思い、その魔法瓶を購入。
ところが家に帰り、花を飾ろうと魔法瓶を開けてみると……。中から出てきたのは、輪ゴムで束ねられた約1万ドルもの札束!思いがけず大金を手にしてしまったジェーン。
「このお金、どうしよう……」そのまま自分のものにするには良心がとがめます。そこでジェーンは、魔法瓶を売った85歳の老女セイディーのもとを訪ねます。
しかしセイディーは、「返品は受け付けない」と取り合ってくれません。ジェーンも「魔法瓶の中に大金が入っていた」と、なかなか本当のことを言い出せないまま。そんな出来事をきっかけに、21歳のジェーンと85歳のセイディーという、年齢も性格もまったく違う二人の奇妙な交流が始まります。
⚠️ ここから先はネタバレを含みます。
この映画は、ラストを知らずに観たほうが絶対に面白いと思います。まだ『Starlet』を観ていない方は、ぜひ映画を観てから続きを読んでください。
すでに観て「あのラストって、どういう意味?」とモヤモヤしている方は、このままどうぞ。
魔法瓶に入っていたお金は誰のもの?
まず気になるのが、魔法瓶の中に隠されていた約1万ドルもの大金です。あのお金は、いったい誰が隠したものだったのでしょうか。
セイディー自身が隠して、そのまま忘れてしまったお金なのか。それとも、亡くなった夫が隠していたお金なのか。
映画の中では、はっきりとした答えは示されません。だからこそ、いろいろ想像できるのがこの映画の面白いところです。私は、あのお金はセイディー自身が隠していたものなのでは?と思いました。
そして、ちょっと夢のある想像をするなら、もしかするとセイディーが昔ビンゴなどで手にしたお金を、使わずにずっと取っておいたのかもしれません。
なぜか私は、そんなことまで考えてしまいました。あのお金が偶然ジェーンの手に渡り、それをきっかけに二人が出会った。
そう考えると、魔法瓶の中のお金は単なる「1万ドル」ではなく、セイディーとジェーンを引き合わせるための小さな運命のようなものにも見えてきます。もちろん、これは私の想像です。でも『Starlet』は、こんなふうに観た人が自由に物語の隙間を埋められる映画なのだと思います。
セイディーが取り乱した理由
この作品の中で、セイディーの感情が大きく揺れ動く場面があります。ジェーンの愛犬スターレットを預かっていたセイディーが、ほんの少し目を離した隙に犬を逃がしてしまうシーンです。
必死になってスターレットを探すセイディー。
最初に観たときは、「預かった犬を逃がしてしまったから必死なんだ」と思います。でも、ラストまで観てからこの場面を思い返すと、少し違って見えてきます。
大切な存在が突然いなくなってしまう。
どこにいるのかわからない。
必死になって探しても見つからない。
この出来事そのものが、ラストで明らかになるセイディーの過去と重なっていたのではないでしょうか。だからこそ、セイディーはあれほど動揺したのかもしれません。
そして私は、もうひとつ感じました。セイディーは、「このことが原因でジェーンも自分のもとから去ってしまうかもしれない」と怖くなったのではないでしょうか。
再び大切な人を失うくらいなら、自分から先に遠ざけてしまう。そんな気持ちから、セイディーはジェーンを拒絶してしまったようにも見えます。考えてみれば、愛犬スターレットはいつも二人の間にいました。もしかするとこの小さなチワワは、ジェーンとセイディーをつなぐ存在でもあったのかもしれません。

なぜジェーンはポルノ女優だったのか?
『Starlet』の感想を読むと、「ジェーンは別にポルノ女優じゃなくても、この物語は成立するのでは?」という意見もあります。
確かに、ストーリーだけを考えればそうかもしれません。でも私は、ポルノ女優という設定にも意味があるように思います。
この作品には、21歳のジェーンと85歳のセイディーという、まったく違う時間を生きる二人が登場します。
ジェーンには、これから長い人生が待っています。ところが彼女自身は、その若さとは裏腹に、自分がこれからどこへ向かうのかよくわかっていないように見えます。仕事はしている。生活もしている。
でも、その先に何があるのかは見えない。一方のセイディーには長い人生の「過去」がありますが、その過去をジェーンはほとんど知りません。
未来の見えない21歳と、過去の見えない85歳。
この対比を描くために、ジェーンには将来が約束された安定した職業ではなく、先の読めない世界で生きている女性という設定が必要だったのではないでしょうか。だから私は、「ポルノ女優でなくてもよかった」とはあまり思いません。
むしろその設定があるからこそ、ジェーンの若さ、不安定さ、そして「これから何者になるのかわからない」という部分が際立っているように感じます。
そして原題の『Starlet』が「スターの卵」「売り出し中の若い女優」という意味を持っていることを考えると、ここにも何か意図がありそうです。
セイディーの夫は本当にギャンブラーだった?
映画では、セイディーの夫は心臓発作で亡くなったことや、ギャンブルについての話が出てきます。
もちろん、それをそのまま受け取ってもいいと思います。でも私は、ここでもちょっと違う想像をしてしまいました。
ジェーンとセイディーがビンゴ大会へ行ったとき、ジェーンは「私が勝ったらパリへ行こう」と盛り上がり、たくさんのビンゴシートを買って必死にスタンプを押していきます。ところが……。まさかのセイディーがビンゴ!ここで私は、「もしかして、ギャンブル好きなのはセイディーのほうだったりして?」なんて思ってしまいました。
セイディーはお金についても、使い切れないほどあるようなことを話しています。もし彼女自身が昔からビンゴやギャンブルを楽しんでいたとしたら?そして、魔法瓶に入っていたお金も、実はセイディーが手にしたものだったとしたら?……なんて考えていくと、また違った物語が見えてきます。
もちろん、これも映画の中で示された「正解」ではなく、私の勝手な想像です。でも、それでいいんじゃないでしょうか。映画は、監督が用意した答えを当てるクイズではありません。観た人それぞれが「あれはこういう意味だったのかも」と想像できる。私は、そんな余白が残されているところも『Starlet』の魅力だと思います。
『Starlet』意味深いラストシーン。
Starlet』で最も印象に残ったのが、やはり最後のお墓のシーンです。セイディーとジェーンはパリへ向かう途中、セイディーの夫が眠る墓地へ立ち寄ります。飛行機の時間も迫っていたため、セイディーはジェーンに「あなたのほうが速いから」と、お墓に供える花を託します。ジェーンが向かった先にあったのは、セイディーの夫フランクのお墓でした。
FRANK PERKINS
Loving Husband and Father
1920–1971
フランク・パーキンス
「愛する夫、そして父」
1920–1971

そして、その隣にはもうひとつのお墓があります。
SARAH PERKINS
Beloved Daughter
1951–1969
サラ・パーキンス
「最愛の娘」

1951–1969サラは、わずか18歳で亡くなっていました。ここで、それまでセイディーが語らなかった過去が突然見えてきます。以前ジェーンに子供がいるのか聞かれたとき、セイディーは「いない」と答えていました。でも、本当は娘がいた。なぜセイディーは「娘がいた」と言わなかったのでしょう。あまりにもつらい記憶だったからなのか。
それとも、すでに亡くなった娘について話すことができなかったのか。映画は、その理由を説明してくれません。だからこそ、それまでのセイディーの行動が、ここで少し違って見えてきます。
セイディーはジェーンに娘を重ねていた?
墓石を見つめるジェーン。少し離れた道路脇の車では、セイディーとスターレットが彼女を待っています。
セイディーは車の中からジェーンを見つめ、やがて静かに視線を前へ戻します。ジェーンは墓石を見て、セイディーの過去を知ります。
そして少し立ち止まったあと、セイディーの待つ車へ戻っていく。
ほとんど言葉のないシーンです。でも私は、この場面で二人の関係が大きく変わったように感じました。もしかするとジェーンはセイディーに「母親」のようなものを感じ、セイディーもまたジェーンに、亡くした「娘」の面影をどこかで感じていたのではないでしょうか。
二人は、お互いの過去を必要以上に詮索しません。何もかも話して理解し合ったわけでもありません。
それでも、一緒に過ごす時間の中で少しずつ心が通じていった。そして最後にセイディーは、言葉ではなく娘のお墓をジェーンに見せることで、自分の最も深いところにある過去を伝えたのではないか。私はそんなふうに感じました。
ラストでジェーンに降り注ぐ光
もうひとつ、この映画でとても印象的だったのが「光」です。『Starlet』は、撮影がとても自然で美しい映画です。特に私は、太陽の光の使い方が好きでした。
ラストでも、墓地に立つジェーンが柔らかな日差しに包まれます。大げさな演出ではありません。
でも、その光を見ていると、これからジェーンにも、そしてセイディーにも新しい光が差していくように感じられました。
ショーン・ベイカー監督の作品は、色の使い方もとても印象的です。一つひとつのショットが計算されているようでありながら、「ここで感動してください」と押しつけてくる感じがありません。
『Starlet』にも、観客を驚かせるためだけの派手な展開や、大げさな演技はほとんどありません。物語は淡々と進んでいきます。それなのに、観終わったときには不思議なくらい心に残る。そして気がつけば、映画が終わったあとの二人の人生まで想像していました。
あのあと、ジェーンとセイディーはどうなった?
映画は、二人のその後を描きません。だから、ここから先は観た人それぞれの物語です。私はこんな続きを想像しました。墓地を出た車の中では、二人とも何も言わなかったかもしれない。
でも飛行機に乗ってから、少しずつセイディーが自分の娘について話し始める。ジェーンも自分のことを話す。そしてパリで過ごすうちに、二人の関係はもっと近くなっていく。
年齢も、生きてきた環境もまったく違う二人が、本当の母と娘のようになっていく。そしてロサンゼルスへ戻ってからも、二人の交流はずっと続いていく……。もしかしたら、一緒に暮らすようになったかもしれません。もちろん、そんなシーンは映画にはありません。全部、私の勝手な想像です。
でも、それこそが『Starlet』という映画の最大の魅力なのではないでしょうか。「あのあと、二人はどうなったんだろう?」映画が終わったあと、そんなことを考えませんでしたか?すべてを説明せず、その先の物語を観客に委ねて終わる。だから同じ映画を観ても、ラストから思い描く物語はきっと人それぞれです。私にとって『Starlet』は、観終わった瞬間に終わる映画ではなく、エンドロールのあとからもう一つの物語が始まる映画でした。派手ではないけれど、じわじわと心に残る。素敵な映画です。

2020年9月公開|2026年9月 加筆・リライト


